突坂尾根、もしくはセブンデイズ・イン・クロベ

2012年12月29日~2013年1月4日

メンバー:Kさん、アキラ

突坂尾根って知ってる?まー、普通知らないよね。まず知らない。黒部渓谷から白馬岳につながる長いヤブ尾根なんだけど。  魅力?んー、長いってことだけじゃないかな。  そんな尾根登る奴いるかって?うーん、春は年に1パーティー入るかどうかじゃないかな。 冬は?さー、ここ10年で1パーティーいたかどうかの世界なんじゃない? どうしてそんなルートに登ることになったのか、自分でもよく分からないんだよ。自分で決めたのにねえ。何か悩みでもあったのかな? 何となく一緒に行くことになったKさんは、よく分かんないけどそこでいいやとかテキトーに言ってるし。 越年山行なんて何年ぶりかなあ…。

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1日目:12月29(晴れ時々曇り)

宇奈月(9:20)→笹平駅(11:35~12:05)→832mピーク(15:50)

同じ夜行バスのチケットが取れなかったため、朝の富山駅にて集合。

今回のパートナーはKさん。良くも悪くも最強である。宇奈月から入山して突坂尾根から白馬岳を登って栂池高原に下りる、7日間+予備日2日間の計画。

渡されたオレ担当分の食料の重さに驚愕する。一体何が入っているのだ。軽量化を全く無視した生食材満載の豪華な食事に、これから毎日大笑いすることになるのだが。ベースキャンプ方式の山登りか、つーの。

電車で宇奈月へ移動する。

宇奈月駅

宇奈月駅

そこからは笹平駅まで関電の冬期歩道を歩く。関係者以外立入禁止だけどね。黒部という異空間に通じるトンネルだな。

マニアにはたまらん

マニアにはたまらん

笹平駅からワカンを履いて入山。最近降雪があまりなかったようで、春のような積雪状況で、周りでは底雪崩が連発している。ラッセルは少ないけどね。以後下山までワカンは履きっぱなし。天気は上々だけど、入山初日に晴れると大抵ロクなことないんだよ。

笹平駅

笹平駅

尾根に出るとかわいいサルの群れに会った。展望も良く、黒部の対岸に見えるのは駒ヶ岳か?広々としたブナの森で泊まる。

 

2日目:12月30(雨のち雪)

出発(6:40)→突坂山(10:40)→1600m(13:40)

今日は一日雨予報だったが、二人とも基本バカなのでためらわずに出発。装備を片っ端から濡らしながら行動する。これが後に寒~い生活を送る原因となるのだが。

突坂山の山頂らしきところには、山名を示すものは見当たらず。ただ、この山だけ登る人はそれなりにいるようだ。

突坂山

突坂山

その先のキレット状のギャップが一応突坂尾根の核心ということらしい。急な痩せ尾根の下降から、固定ロープのある急なヤブ登りという感じ。ロープを使うほどではない。ただ相棒はこの手の登りがちょっと苦手なようで、この先は自分が大きく先行する。

今回は二人一緒に休むということはほとんどなく、休憩のタイミングは各自の判断で行い、常にどちらがラッセルしているというシステムだった。この時などは2時間くらい離れ離れになってしまい、「あいつ、元気にやってんのかなあ」なんて感じ。行動中はほとんど言葉を交わすこともないが、別に仲が悪いわけではない。多分。

テントを張る頃には雨が雪に変わり、気温が下がる。ようやく冬らしくなってきた。

 

3日目:12月31(雪)

出発(7:40)→1821mピーク(9:20)→1966mピーク(14:15)→深層峠(15:45)

昨晩からの雪が結構積もり、昨日までから一転して本格的なラッセルとなる。1821mピークの先はなかなかに怖いナイフリッジのアップダウン。万歳ラッセルも出てきた。昨日までと比べて進行速度は約三分の一になってしまった。

これを一週間続けました

これを一週間続けました

たまーに太陽も

たまーに太陽も

広い雪原の1966mピークの先は一旦大きく下る。もし往路下山となった場合、ここの登り返しが大変だろなと容易に想像がつく。

深層峠の一角、最低コルの少し手前に、上下左右を針葉樹林に囲まれた完璧なテン場が見つかり幕営。冬山でこんな快適なテン場はそうそうない。大みそかを過ごすのにふさわしい素敵な場所だ。

完璧でしょ

完璧でしょ

今日は大みそかっつうことで、ここまで隠し持っていたビールを出し、パートナーを少し驚かせてやった。ここまで連日の豪華な食事に驚かされっ放しだったので、やり返してやったぜ。…しかし、そういう競技ではない。

 

4日目:1月1日(雪のち曇り)

出発(7:40)→2080m引返し地点(12:00)→深層峠(13:20)

山行前の情報から、今日は日本海に低気圧が入って冬型が緩むため、晴れる可能性もあると予想していた。しかし相変わらず雪。そして苦しいラッセル。気付けばもう昼前。

ラッセル深くないすか

ラッセル深くないすか

これ以上深入りすると往路下山が難しくなる。計画通りに白馬岳から栂池に抜けるほうが距離は短いが、好天を捉えなければ動けない。可能性はまだあるが、この状況からシュミレーションするとかなりのギャンブルになる。往路下山は距離が長く、ラッセルのやり直しになって体力的に大変だが、ある程度の悪天候でも動ける。急がば廻れか?「引き返す勇気」なんていう陳腐な文句に惑わされて登る勇気を忘れていないだろうか?

完全に何も考えてないと思われるKさんを尻目に、オレはさすがに真剣に考えたね。

一旦平らになったところで進退についてのごく短い協議を行い、悔しい決断であったが引き返すことにする。「せっかくだから猫又山だけ空身でピークハントしとく?」なんて提案してみたが、パートナーの露骨で分かり易い嫌そうな顔を見て即却下。

最終到達点にて

最終到達点にて

1966mピークへの地獄の登り返しは明日にとっておき、今日はお正月なので少々早いが今朝のテン場にもう一度テントを張り直す。すると雪は止み、夜には晴れてしまった。こんなもんだよね。

明日からの困難な撤退行を考えると胃が痛くなる。ちゃんと無事に下山できるかな?一方、隣りの人はすっかりお正月気分を満喫しているようで、リラックス&リラックス。夜はかわいいおせち料理なんかが出てくる。もしかしたらそんなに大変な状況でもないのかなあ。オレって心配性なのかなあ。自分もあっち側の人間に生まれたかったよう。

 

5日目:1月2日(雪一時曇り)

出発(7:05)→1966mピーク(10:30)→1821mピーク(13:00)→1500m(14:50)

朝になるとまた雪。この頃になると2日目の雨と3日目以降の湿雪にやられてシュラフはどんどん濡れ、昨晩は眠れなかったと毎朝二人でぼやき合う。でもきっとKさんのほうがよく寝てるに決まってるのだ。気合を入れ直して今日もラッセルするぜい。

1966mピークへの登り返しはやはり地獄だった。ただ、途中でかわいいテンに会った。Kさんはライチョウにも会えたらしい。それを聞いて、思わず少し引き返して探しに行ってしまった。ライチョウ好きなんだよねえ。しかし、もしかしたらそういう呑気な状況ではないのではと我に返り、戦線に復帰する。そうです。もはやこれは戦いなのです。

中身はKさん

中身はKさん

この日は日本海を二連の低気圧が通過中で、たまに太陽が顔を出したりして常に厳しい風雪というわけではなく、助かった。視界のある今のうちに安全地帯まで逃げ込みたいと必死で進む。オレはね。

帰るよ~

必死さがかけらも感じられない人

1821m手前のナイフリッジは行きの時より立派になっていた。その先のいかにも分かりにくそうな下りは、視界に助けられて何とかこなす。その後も一度ルートミスしかけたが、所々に行きのトレースが残ってたりして無事2日目のテン場に着く。本日はもう一段下の二重稜線まで下った。

 

6日目:1月3日(雪)

出発(7:15)→突坂山(11:45)→832mピーク(14:50)

テン場からいきなり下る方向が分からずウロウロ。1482mピークからキレットへの下りも一度支尾根に誘い込まれてしまったが、一瞬突坂山が見えて下り口が発見できた。キレットのところは短いながらも惚れ惚れとするようなナイフリッジが出来上がっていた。

キレットから突坂山への登り返しは基本万歳ラッセル。もうなんか全身が痛いんですけど。突坂山からの下りも予想通り分かりにくく、右往左往しながらどーにか正しいほうへと下っていく。少し期待していた行きのトレースなんて、これだけ降れば残ってるわけないよね。

うまくいけば今日中に下れるのではという淡い希望は完全に裏切られ、初日のテン場に着くので精一杯。今日は下りだったのに、登りだった2日目より時間がかかってしまった。距離も短いのにね。下りなのにラッセルが大変というのは嫌になってしまう。脚が根元から取れそうです。

今日もこんな感じ

今日もこんな感じ

今日は冬型がバッチリ決まったようで、多分この一週間で一番天気状況が悪かった。1821mピークより上部だったら行動できなかったかもしれない。

 

7日目:1月4日(雪)

出発(7:20)→笹平駅(12:00~12:30)→宇奈月(14:30)

今日も降雪&ラッセル。最後の最後で気を抜いてしまったのか、笹平駅へに下降点である531mの鉄塔が分からずスルーしてしまう。ああ、やっちまったよ。無駄な遠廻りをしながら最後の気力と体力を振り絞ってラッセル。「余計な苦労をさせてしまってごめんよお」とKさんを見れば、相変わらずシュールな笑みを浮かべてなんか楽しそう。まー、気にしなくていいみたいだ。

笹平駅に着いて実質的に登山終了。あとはただの腑抜けと化して宇奈月へとトボトボ帰るのだった。

帰ってきました

帰ってきました、宇奈月駅

 

お疲れ~

お疲れー

 

この一週間で我々がやったことといえば、突坂尾根という登ったところで誰にも褒められないヤブ尾根を途中まで登り、そして引き返してきただけだ。あれだけ苦労したのに成果ゼロ。一週間フリークライミングでもしてりゃ、何かしら登れるのにね。あ、でも、体力と根性は少しついたか。

ピッケル、アイゼン、登はん具は一度も使わず、毎日ザックに出し入れしてただけ。カッコ悪い登山だねえ。オレなんかピッケルをでかいザックの中に入れて歩いてたから、Kさんは最後まで「この人本当にピッケル持ってるの?」と思ってたらしい。

でも面白かったよ。全力を出し切るっていいねえ。こんなに真剣に登山したのっていつ以来かなあ。山行前のプレッシャーは半端なかったな。あのKさんでさえ、心配でよく眠れない時があったと聞いて、ああ彼女も人間なんだと少しほっとした。まー、どうせちょっと寝つきが悪いという程度だったんだろうけど。

自分はかなり今までラッセルをしてきたと思ってたけど、一週間でこんなにラッセルしたって初めてじゃないかな。もう疲れたよ。ヘトヘトだよ。しばらくはもうラッセルとかいいや。アイゼンで歩きたいよ。

自分の生活技術はダメだったねー。冬山を結構知ってる気になってたけど、黒部の湿雪には完敗です。最後の方はシュラフが濡れまくって、まるで水の中で寝てるようだった。Kさんは同じ哺乳類のイルカが水の中で眠れるんだから、人間も慣れれば眠れるはずだとかおかしなこと言ってたけど、そりゃ無理だろ。少なくともオレは無理。絶対無理。

だけど、今回ばかりは能天気なパートナーに感謝したい。彼女がいなかったら、もっと早くさっさと帰ってたね。いつもヘラヘラしてる相棒を見ていると、まあどうにかなんのかなと思ったし。そして美味いメシをたらふく食わされたら頑張っちゃうよねえ。…ってオレは馬か?自分が死ぬことはあっても絶対彼女は生き残ると思ったね。だから最強。

どうせ誰も褒めてくんないだろーから、自分で自分を褒めるよ。よくやった、オレ。実に頑張った、オレ…。

 

 

 

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2 thoughts on “突坂尾根、もしくはセブンデイズ・イン・クロベ

  1. 相変わらず、あなたもKさんも果てしなく訳が判らないし、
    ほとんどの写真が、Kさん雪に埋もれてるの図にしか見えないです。
    しかし、Kさんのシュールな笑顔は目に浮かびます。

    おれも、褒めますよ。ほんと。

    まいりました。すいません。
    お疲れ様でした。

  2. 食事について。
    初日は確かすきやき。これ食えんのかという量の肉と、もちろん生卵もあったよ。
    あとは5日目くらいまで(!)様々な肉料理(いろんな鍋)と魚まで出てきたよーな。
    食当の人がたまに「分量間違えちゃったかなー」(もちろん多いほうに)と言ってました。
    それから、下山後富山の居酒屋で食べた「げんげ」っつう深海魚(?)は初めてだったけど、そりゃー美味かったよ。

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